もうライブから2カ月近く経っていて、「舞台 ヨルハVer1.3a」も開演するっていうタイミングですが……先の5月に行われました「Billboard Live meets NieR Music」のレポートをお届けしたいと思います。
「ずいぶん時間がかかったけど、サガコ、お前何してたの?(仕事が渋滞してたうえに、体調崩してた)」って言われそうだけど、そもそもの話をしよう。
今回のライブは「取材じゃない」っていう認識だったんです。どこかの編集部からレポの執筆依頼が来たわけでもないし、普通にのんびりとごはんを食べて、お酒を飲んで、ゆったりお客さんとして『ニーア』の音楽を味わうんだ~とか思ってたんです。だけどね、家を出る時に私の中のゲシュタルトが囁いたんです。
「ひょっとしたらってこと、あるかい?」と。
それで慌てて、メモ帳とポメラだけはバッグに詰めていきました。「今夜は使わないのになー」と思いながら、ね。
そうして現地についたらスクウェア・エニックスの最近すっかりエラくなっちゃった『ニーア』の音楽関係といえばこの人、なメディア・アーツ事業部のSさんに「あれ? サガコさん、取材道具は?」みたいな顔されましたよね。おやおや? なんだかおかしいぞ?
席こっちですよ~って案内されたら、となりの席ですごくよく知ってる人がすでにビール飲んでて「あ、どうも」って挨拶しあって、「ちょっと待って、席がおかしくない?」って言ったところで逃げられないわけですよ。ほかに席ないんだもの。
こんなん、そっとメモ帳を出すしかないじゃないか。ちなみに私のメモ帳にこの夜最初に書かれた単語は、となりの人(ヨコオさん)が開口一番に発した「岡部さんの金満主義」でした……。
▲こんなつもりで来たんじゃないのに!! 手がヨコオさんのコメントを勝手にメモしてしまうヨ……ナ……。
サガコ:タダツグさん、タダツグさん。あのね? もし私がレポートを書いたら、シシララTVで掲載してくれたりするものなのかしら?
タダツグ:掲載しますよサガコさん! それはそうと、キミもお酒飲むかい?
サガコ:(即決かよ! ていうかもう飲んでるのかよッ! 逃げ道を塞がれた……)
一緒に来場していたシシララTVのタダツグさんとそんな会話を交わしつつ、ソフトドリンクのページからジュースを注文する私。正直、心の準備ができてない状態で、仕事現場に放り込まれてもう必死。目を皿のようにしてステージを見る。楽器は? 編成は? 情報が必要だ。
私があたふたしていたので気を遣ってか、スクエニのSさんが「必要な情報あれば、あとからお知らせしますから、楽しんでいってください」と。そうね、そうね。せっかくのビルボードライブだもんね、そうだね。楽しみますとも、『ニーア』関連は毎回わりと仕事そっちのけで楽しんでますとも。
サガコ:始まる前からなんなんですけど、とてつもなくエモかった。言葉にするのが無理すぎる。これだけでレポート完結しないかね?
タダツグ:……Sさんにどんな顔してそんなレポートを提出すればいいんだ?
サガコ:デスヨネ。YMSO(ヨナモソウオモウ)。
■言葉を選ぶなら「ゴージャス」とか「アーバン」とか? パシフィコ横浜のオーケストラとはまた別種の「贅沢」な空間と時間が広がる。
お酒や食事を楽しみながら、生の音楽とステージを堪能する……世界レベルのミュージシャンばかりが出演するクラブ、ビルボードライブ東京。今までの『ニーア』イベントとは絶妙に一線を画す、ワンランクかツーランク上の環境。
『ニーア』の評価やランクが世界的に上昇していくことはうれしいけれども、クラブイベントというだけで、慣れない人にとってはなかなか敷居が高いイメージもある。オーケストラコンサートのときにも若干あったんですが、普段から「自宅で干物になってる」私のような人種は、まず規模や箱や様式に怖気づくんですね。
ジャズや生演奏を積極的に楽しんだりなんてしてこなかったし、クラブに慣れ親しんでもいない私には「チケット代云々よりも、空間的なハードルが高い……」と思いました。
だけど、いざ訪ねてみれば会社帰りの普段着でカジュアルエリアにひとりで参加している人もそれなりにいらっしゃるようでしたし、ドリンク1杯、ピザやポテトをラフにつまみながら座ってていいし、歓談しててもいいし、スマホ見ててもOK。MONACAの岡部啓一さんやエミ・エヴァンスさんがご挨拶されたら「こんばんは~」って和やかにレスポンスするし、もうどんな会場で、どんな規模でも変わらないんだなって。
だから「あ、先入観だけで避けてたらもったいないな」と感じました。そして確信しました。どんな会場であっても『ニーア』のお客さんは『ニーア』のお客さんだから懐深いし、気は優しいし、だいじょうぶ!! といいますか、パシフィコ横浜もビルボードライブ東京もこなした「世界の岡部啓一」そして「世界の『ニーア』」にもう怖いものなんてないんじゃないかな? と。
▲こちらが(金満主義の)世界の岡部啓一さん。
どこで公演をやるにしても、なにかとチケットが完売しちゃう『ニーア』関連ですから行こうと思っても行けないとか、金銭面、時間面、行きたいと思ったけど気持ちで尻込みしちゃった……など、さまざまな理由が人それぞれにあるかと思いますが、もしも!! もしもビルボードライブ×『ニーア』に次回があるならば、私は全力でオススメします。
人によって「こんなことでもなかったら一生行かない」みたいな場所がもしあるとすれば、「こんなことがある時」に足を踏み入れてみるべきなのです。ビルボードライブ東京は、それくらい魅力的なライブハウスでした。ステージの背面は大きなカーテンで覆われていて、映像などを投影できるようになっていたのですが、じつはカーテンを開けると全面ガラス張りになっており、六本木の風景が見えるようになっているのです。
夜の回でのアンコール時は、ここぞという局面でカーテンが開く演出も……。カーテンが開く、たったそれだけのことなのに、本当に見事な心揺さぶるギミックになっていて、日本庭園の「借景」に例えるのはおかしいかもしれないけれど、「ああ、この立地、風景も含めてのライブハウスなんだ」という衝撃と感動がありました。六本木のビル群を背負ってバンドが演奏し、エミさんが歌う……しかも『ニーア』の曲を。カッコいいの極みですよ!
しかも、そのときの曲は「Weight of the World」。つい廃墟都市を思い出してしまって、あのビルの屋上や窓のあたりにいつか9Sや2B、A2たちが居るんじゃないかなとついついそんなことを思ってしまいました。そして生の楽器の音もエミさんの歌声もまるでガラスを通して夜景の向こうにまで広がっていくかのようで、うっかり追加で泣きました……。手前で演奏された「カイネ」で、すでにホロホロと泣き崩れ落ちていたというのに!
■ただ聴いていられる、という新たな幸せ。
ビルボード以外の『ニーア』のコンサートでは、毎回、大なり小なりヨコオさんの仕掛けてくる新たなサプライズ要素を含んだ演出がありました。
「せっかくファンの方に、お金を出して来ていただくんだから」とヨコオさんはいつもおっしゃいます。朗読があったり、新たなセリフや新キャラが登場したり、それはとてもうれしくて楽しみであると同時に、総合芸術的でもあります。
そしてうれしいけれどもとても心臓に悪いというか、半分スタッフ、半分ファンの立場から見ていると「いつまでコレをずっと続けていくんだろう?」と不安にも思ってきました。
新しいものは見たいんですよ? いつだってそこも含めて味わいたいんだけど、台本と現場が違ってたりするし、ヨコオさん含めてアオキさんとかスタッフのみなさん寝てますか? 起きてますか? 生きてますか? みたいな心配があるし……。
本末が転倒して「コンサートのための新規要素の準備があるから新作づくりに時間が割けない」とか「新規要素がないから、コンサートが開けない」なんてのもちょっぴり切ないじゃないですか。
そしてもうこれは個人的な思いでしかありませんが、『ニーア』の音楽は『レプリカント』の時から「名曲しかない!!」と思い続けての今日なわけです。『ニーア』というゲームを知らない人の心だって曲だけで揺さぶるよ、と思ってきた。信じてきた。実際CD売れた。だからこそ純粋に「音楽」という要素に絞った今回のビルボードライブでのコンサートは、ひとつの「理想の実現」であり、「かなり凄いことなんじゃないの?」と思ったわけです。
アレンジもおそろしくカッコよかったし、矛盾してしまうけれどまったく『ニーア』を知らない、ファンじゃないオトナの人たちにもぜひ聴いていただきたいとさえ思ってしまったのでした。(おそらくはビルボードライブのメンバーズ席などにはそういうお客様もいらしたのでは)
このイベントの演奏はCDかBlu-ray Disc出るのかなあ、出るんだとしたらわりと楽しみなんですけど、どうなるのかなあ? いろいろ難しいなら、配信でも相当ありがたいのですが。なんらかのソフトになった場合にはもちろんじっくり聴く、じっくり見るのもいいでしょうし、一方で今回のイベントと同じように落ち着いた食事のBGVにするとか、仕事のBGMやデートのお供にとか、人生のいろんな場面に華を添えてくれるソフトになる気がしますが、どうなんでしょうね。また聴きたいよ、オシャレが極まってたあのバンドアレンジを。
CD類もたくさん出てますから、常々『ニーア』の曲をいろいろ聴いてるよ、という方にとっても、ビルボードライブの音は違う味わいが感じられて、きっと新鮮だと思います。巧い表現ではないかもしれませんが、いつものおいしいお酒がスパークリングになりました! みたいな、オトナっぽい洗練された華やかさがあったと思います。
もちろん各楽曲はアレンジによって装いがさまざまに異なるんですけども、ヨコオさんの言葉を借りれば「金満」とも言えるでしょうが、もっと好意的な言葉で伝えてもいいなら、『オートマタ』の曲ならいつものスタイリッシュなあの子が、『レプリカント』の曲ならかつて、どこかいつも寂しそうだったあの子が、立派になってドレスアップしてようこそ!! みたいな喜びの時間でした。
それはまた去年のオーケストラの立派さとは別の種類の美しさであり、成長であり、パワフルさであり、華やかさであり……つまるところどっちも好き! 全部好き! ってことなんですけど。すっぴんの君も好き、ってことなんですけど。
伝わりますか? この想い。伝わってますか? 音楽に疎い私のこの必死の解説が!? 気持ち悪くなければいいんですけど……(汗)。
もし自分が音楽や楽器にくわしかったなら、「演奏技法が~」とか「アレがこうだからリズムがこうで!!」みたいなことがもっと書けると思うんですけど、すみません、私、ただのニーアの墓守(モンペ)なものですから……。
見たまんま、聴いたまんま、感じたまんまに書くことしかできない。長々書きましたし、書きますけど、最終的には「かっこよすぎて震えたし、おなかと胸に音や歌声がダイナミックに踊りながら飛び込んでくるようだったし、世界中の『ニーア』ファンと一緒に乾杯しながら聴きたい曲ばかりだったし、エモエモのエモ!」でまとまるんじゃないか。古語で言うなら「いとをかし」。魅力がありすぎて表現しきれない。
エミさんが中心に立って歌うあのステージ空間を『レプリカント』の酒場のようだった、と思わなくもなく、とはいえあまりにも豪華すぎて、それも……そうなんだけど……という、このもどかしい感じをお伝えしたい。『レプリカント』独特の、あのもの悲しく、くすんだイメージがつきまとう酒場の雰囲気とはまた対極にありましたが、歌姫を囲んでの生の楽器の音、リズム、美味しいお酒……というシチュエーションはそれはもう何物にも代え難く、「主人公の村」の村人の疑似体験でもあったわけです。至高のひとときでした。
■音楽として、今までになく自由だったような気がした。
わりと原曲のメロディであったり、芯の部分を残しつつ、遊びを感じながら気分が高揚するような演奏・バンドアレンジが多く、個人的には「ライブハウスの雰囲気に合わせつつも、崩しすぎないちょうどいい塩梅の自由度」と感じました。それはもうメンバーのみなさんが総じてそのように演奏なさっていたからに他ならないんでしょう。
セッションとかジャズの、あの「リアルタイムで合わせて演ります!」スゴさは目の当たりにするとまさしく職人芸×職人芸って感じで、それこそ魔法のよう。素人には何がどうなってそうなるんだか、まるでわかりませんが、ものすごい勉強量と経験値とセンスとで構築されていて、結果として複雑に計算され尽くした音楽や作品がいきなり眼の前にたち現れて、それに飲み込まれました。
「洗練されたプロフェッショナルって魔法使いだな」と思いました。
厳選された13曲+アンコールの「Weight of the World」。その中でも「美シキ歌」や「塔」は激しめのアレンジに仕上がっていて、ゲーム中のシナリオの切なさをぐぐっと凝縮して思い出させてくれるようなパワーがありました。ちょっと儚いイメージの「遊園施設」からの流れで、さらに2曲続けてのスピード感、クライマックス感がとても素晴らしかったです。
■ヨコオさんが(金満主義の)岡部さんにインタビューしてくれたよ!!
終演後の楽屋にて。
サガコ:岡部さん、こちらで少しだけお話うかがってもいいですか?
(金満主義の)岡部啓一さん(以下、岡部):はーい! もちろん!
ヨコオタロウさん(以下、ヨコオ):さて。岡部啓一さんに来ていただきました。前回、パシフィコ横浜の大ホール4000人という規模のホールでのオーケストラで満足したかと思いきや!! やっぱり岡部啓一さまクラスになると、ビルボードライブみたいなオシャレな箱でもやれちゃうんだよね~的なことをこの金満主義の岡部啓一さまは思ってらっしゃる訳ですか?
岡部:そんなことない、そんなことないっ!! そもそもこのビルボードライブさんでは、去年「Billboard Live presents SQUARE ENIX JAZZ」っていう画期的な企画があって、僕はそれを拝見して素敵だなと思っていたんです。そうしたらスクウェア・エニックスさんから「岡部さん、『ニーア』でビルボードライブどうですか?」というお話をいただいたので、すぐに「こんな風にしたいなあ」とイメージが湧いてきて「『ニーア』が好きなお客さんだったら、ジャズアレンジにしてもメロディアスな部分を強めに残しつつ、エミさんの生の歌声をしっかりいかして聴いてもらって、そのうえでほかの部分でガッツリとバンドアレンジを~」と具体的なビジョンがパッと出てきたので、石成(正人)さんにアレンジをお願いして、トントンと企画が進みました。
サガコ:こんな豪勢なことになった9周年。来年は、どうするんですか?
ヨコオ:ロフ○とかの小さな箱で、原点に戻る感じの企画を……。
サガコ:キャパ!! ヨコオさん、キャパシティを考えてっ!! むしろ見てみたい、行ってみたい気はしますけども、今の『ニーア』じゃ、逆プラチナチケットになっちゃう。
ヨコオ:1週間とかぶっ通しでやればなんとかなりますよ。
サガコ:ならないならない(笑)、全通したいファンであふれてたいへんなことにしかならない……。
ヨコオ:じゃあもう和太鼓とかで。
岡部:それもうお祭りじゃん。
サガコ:それも見てみたい気はするけど!! わかった!! これ訊いたら訊いただけ適当なやつ出てくるパターンだ。まだ誰の中にも具体案がなさそうだってことはわかりました!! スタッフのみなさんはひとまずこのビルボードでのライブに向けて全力だったってことがわかりました!! 来年については、まだこれからですね。
岡部:きっとスクウェア・エニックスのエラい人たちが動いてくれるって信じてる……。
サガコ:私も信じてる……むしろ和太鼓アレンジのお祭りでもいいよ……それはそれで全力で楽しむ自信がありますよ。(ボソッと)ファンフェスとか見たいなー。
▲今回のビルボードライブとはまた違った、なんらかの企画に期待したいところ。
さて、10周年はどうなりますことやら。楽しみに待ってます!! 心の底から待ってます!! プロデューサーの齊藤陽介さんか、ヨコオさんか、岡部さんか、Sさんがなんとかしてくれるに違いない。ファンのみんなでお祝いしたいですね。心待ちにしています!!
テキスト:サガコ(Sagako) フリーライターときどき小説家。ゲームやアニメ、テレビが好きだけど腐女子にもなりきれず夢女子にもなれず、すべてにおいてハンパな人生を謳歌中。「少年ヨルハ」や「NieR Orchestra Concert 12018」、そして「舞台 ヨルハVer1.3a」でパンフレットのテキストやインタビューを担当。不思議なご縁で「水曜どうでしょう」関連の書籍も手がけています。
ツイッターアカウント→サガコ@sagakobuta
電撃文庫「リペットと僕」