前編はコチラ→ファミコンにロックの要素を持ち込んだ『女神転生』のサウンド
■不協和音でも音量を変えて重ねると音に厚みが出ることがわかった
安藤武博(以下、安藤):実をいうと、増子さんのことをずっとベーシストだと思っていたんです。『女神転生』の「ヴァルハラ回廊」の曲は、ベーシストからすると超美味しいフレーズの連続だというのがその理由なのですが。
増子津可燦さん(以下、増子):実はギタリストなんですよ(笑)。
安藤:それがとても意外で(笑)。僕は3ピースバンドをやっているんですけど、ギターもベース出身なんですね。2人で「やっぱ『女神転生』のヴァルハラ回廊のベースはいい」といった話をします。
戦闘曲もそうですけど、ベースのフレーズがとにかく印象的。少ない音数で曲をドラマティックにするテクニックとして、「ベースフレーズの変化で展開する」というものがあると思いますが、増子さんの曲はそれだけではなく、細かいオカズや手クセも豊富。だからこそ、絶対にベーシストだろうと。
増子:でも、ギタリストではあるんですけど、プレイヤーとしてはそんなに上手ではなかったですね。学生時代にキッスとかのハードロックのコピーバンドをしていた程度です。そしてベースに関してはほとんど弾いたことがありません。おもに作曲のときに、ベースフレーズを作るっていうだけで。でも、好きなベーシストにルイス・ジョンソン(※1)がいますね。
(※1)ルイス・ジョンソン……スラップ演奏を得意とするアメリカ出身のベーシスト。ザ・ブラザーズ・ジョンソンのメンバーとしての活動の他、多くのヒットアルバムのレコーディングに参加している。
安藤:ルイス・ジョンソンというとスラップベースですけど、スーパーファミコン以前ではゲーム音楽であまりスラップベースは使われていない印象があります。
増子:実際はそうでもないんですよ。FM音源でシューティングの曲を作っているところだと、スラップベースはよく使われています。僕の場合はミュート音も全部仕込むから、打ち込むのがたいへんだったので、スラップベースはあまり使っていませんけどね。
ファミコンだと、ベースとバスドラムとスネアが共通していて、1チャンネルで3音出さないといけなかったんです。そこでさらにスラップをやるのはちょっと……って感じででした。スーパーファミコンでは『真・女神転生if…』でスラップベースを使いましたけど、あれを作るのもたいへんでしたね。
安藤:『女神転生』はエンディング曲も好きなんですが、今聴くとベースの音作りがノイジーだし、倍音が鳴ってハモっているように聴こえます。あの音作りは狙って作られたものなのでしょうか。
増子:あの曲は途中で矩形波と重ねてデチューンが掛かっているので、ハモって聴こえるんです。作るのはすごくたいへんでしたけどね。そうそう、その話で思い出したんですけど、昨年『女神転生』のコンサートをやるってことで、当時のデータをサルベージしまして。あのころの自分が作ったソースコードを見たんですけど、「うわ、面倒くさいことやってるなぁ~!」って思いました(笑)。