都会の喧騒から少し離れたところにひっそりと佇む"ギャルゲーBAR☆カワチ"。ここは、日々繰り広げられるコンクリートジャングルでの生存戦争に負けそうになっているメンズたちのピュアハートを、ゲーム好きのマスターが「ギャルゲートーク」で癒してくれるという、シシララTVオススメのゲームBARなのだ……。
そんな体裁でお送りするギャルゲーコラム。気になる第21回目のお客様の悩みと、その痛みを癒してくれるゲームとは?
■物語の舞台は罪を犯すと“特別な義務”を負わされる社会!?
──やっほーマスター! シャンパンちょうだいシャンパン!!
カワチ:元気だな。シャンパンだったら……珍しくペリエ ジュエ ブラゾンロゼが入ってるんだけど、飲むかい?
──なんだかわからないけど、それでいいや!
カワチ:適当だねぇ。まぁここはギャルゲーBAR。あくまでお酒はおまけだからいいけどさ。それにしてもやけにご機嫌のようだが、何かいいことあったのかい?
──ん? 気になる? ん? ん?
カワチ:……どうしても聞いてほしいって感じだな(笑)。
──へへへ。じつは俺、マンガ家のアシスタントしているんだけどさ。先生に頼んで、今度編集者さんを紹介してもらえることになったんだ。これでデビュー間違いなしさ。出版記念パーティにはマスターも呼んであげるからね!
カワチ:やれやれ気が早いなぁ。顔合わせするだけだろ?
──でも、原稿を見せてほしいって言われてるからさ。そこで編集者の目に留まればワンチャンあるでしょ! ぷぷぷ。
カワチ:よっぱど自信があるってことか。じゃあ、俺にもその自信作を見せてくれよ。
──あ、あぁ。俺の頭のなかでは完成しているんだけど。まだ描き始めていないんだよ。
カワチ:はぁ!? 編集にはいつ会うんだよ?
──ちょうど来週の今日だな。まぁ1週間あれば余裕っしょ!
カワチ:……ふぅ。やれやれ。
──え、もしかしてマスター呆れてる?
カワチ:いわれたことしかできない人間を三流。いわれたことを上手にできる人間で、ようやく二流。森田はいつになったら一流になるんだ?
──森田? 俺は森田って苗字じゃないんだけど……。
カワチ:今のは『車輪の国、向日葵の少女』という名作ギャルゲーに登場するセリフだ。今日はいつになっても一流になれないお前に、この作品の魅力をとことん語ってやるとしよう。
──えぇー!?
カワチ:『車輪の国、向日葵の少女』は、あかべぇそふとつぅから2005年11月25日に発売されたアダルトゲームだ。その後、作品のヒットを受けて『Memories Off』シリーズや『シュタインズ・ゲート』なんかで知られる5pb.がコンシューマに移植したんだ。
──(……語りだしちゃった)でも、移植されたってことはおもしろさが担保されているってことだよな。やっぱりストーリーがおもしろいとか?
カワチ:そうだなぁ……。ネタバレも含めるといろいろあるんだけど、秀逸なのは設定だな。『車輪の国』は日本に似た架空の国が舞台なんだけど、ここでは罪を犯すと“特別な義務”を負わされるんだ。
──特別な義務ぅ? いったいどういうこと?
カワチ:懲役のかわりに“恋愛できない義務”とか“1日が12時間しかない義務”を負うことになるのさ。 たとえば“恋愛できない義務”を課せられたら、異性と触れてはいけなくなる。これは女性をだましてとっかえひっかえしているような男が負う義務なんだけども。
──うーん、それはかなり手厳しいね。でも、確かに懲役よりも罪の意識を感じることになりそう。いやでも人権的に……って、これエロゲーなんだよね!? そんなに重い設定なの!?
カワチ:だからエロゲーのストーリーはおもしろいって何度もこのBARで言ってるでしょ!? バカにしちゃダメなの!!
──いや、そんなこといわれても俺にとっては初耳だし……。
カワチ:そうだったな、すまん。『車輪の国』の話に戻るけど、主人公は義務を負った被更正人を監督・保護観察する“特別高等人”を目指している森田賢一(もりた けんいち)って人物なのさ。
──森田……さっき俺が呼ばれた名前。
カワチ:彼はこの特別高等人になるための最終試験として、3人の被更正人の監督を命じらることになる。ぶっちゃけ、この被更正人がヒロインたちっていうわけだ。
──へ? ヒロインたちが犯罪者なの!?
カワチ:ああ。ちょっとほかにはない設定だろ? なんでヒロインたちが義務を背負うことになったのか、そして主人公はどうやって彼女たちを更生させていくのか。ここがゲームの見どころなんだよ。
──やべえ、マジでおもしろそうだな!
カワチ:ああ。重たいテーマではあるんだけど、ギャグシーンも多いから楽しみやすいと思うぜ。
──いいねぇ! でも、ギャグが入ってくると緊張感がなくなっちゃわない?
カワチ:フフフ……。それは安心してくれ。本作には法月将臣(ほうづき まさおみ)という主人公の指導者かつ試験官の男が出てくるんだけど、彼がめちゃくちゃ冷徹で怖いんだ。登場するたびに緊張で空気が冷えるよ!
──ちゃんと緩急があるってことね。
カワチ:何を隠そう、ストーリーは試験に遅れてきた女性をこの法月が射殺するところから始まるからね。恐ろしいねぇ……!
──しゃ、射殺? 待ち合わせに遅刻しただけで射殺!?
カワチ:法月は、さとう雅義さんという誰もが聞いたことがある国民的声優が演じているんだけど。いつもの「ぶるぁぁぁぁぁ!」って感じじゃなくて、すごく抑えめな低い声でしゃべるから、怖さも倍増してるんだよ。恐ろしいねぇ……! あ、ちなみにさっきの「いわれたことしかできない人間を三流」っていうセリフも、この法月のセリフな。
──う~ん。ギャルゲーはほとんどプレイしたことがないんだけど、こいつにはすごく興味が出てきた。でも、なんで俺にこの作品を紹介してくれたんだ?
カワチ:フッ……待っていたぜ、その質問を。
■怠惰に生きてきた少女が時間の大切さを知るとき
カワチ:俺がこのゲームをオススメした理由、それはな……今のお前がヒロインの三ツ廣(みつひろ)さちに似ているからさ……。
──さち? 誰だよそれ。似ているってどういう意味?
カワチ:さちは、絵画で賞を取ったこともあるほどの才能の持ち主だが、とある出来事をきっかけに自堕落になってしまい、ネット為替で生活している女の子だ。
──えぇ、およそヒロインらしくない設定だな……。
カワチ:本作のヒロインはなんらかの義務を背負っているって言っただろ? 彼女は強制的に薬で眠らされることで、“1日が12時間しかない義務”を背負っているんだ。
──すくなっ! 普通の人の半分しかないじゃん。ん? でも12時間も寝ていられるんなら自堕落な人間だったら幸せなんじゃないかな。。
カワチ:いや、そんなに優しいものじゃないよ(笑)。特殊な薬だから寝ても疲れはとれないんだ。もともと博打なんかで散財を繰り返した人に対して、時間の大切さを教えるという意味で課せられる義務だからね。
──でも、なんでそんな義務を背負ってるの? ネット為替に失敗したってこと? それにしたって親は……。
カワチ:その疑問もわかる。ええと、ここから話す部分は物語のなかで少しずつ明らかになっていくんだけど……かつてこの国では内乱があって、そのさなか、さちが住む町に軍隊が攻めてきたんだよ。町に内乱の首謀者がいたんだな。
──お、おう。なんかいきなり重たいね。
カワチ:それで、さちの両親は内乱に巻き込まれて死んでしまったのさ。それから彼女は生活のために借金をしたんだけど、返済のために始めたネットカジノにドハマりしちゃって借金が膨らむことになった。結果、こんなとんでもない義務を背負うことになったのさ。
──うーん。重い、重いよ。しかし同情する部分もあるけど、ギャンブルにおぼれてしまうのはちょっとね……。
カワチ:この義務は真面目に働く姿勢を見せれば解消されるんだけど、さちは一向に働かなかったから、どんどん時間を減らされてしまったんだ。
──なるほど、最初から12時間ってわけじゃなかったんだな。
カワチ:ああ。才能のあった絵のほうも、他人の作品を真似したものだという非難を受けてから描くのを辞めてしまっているしな。
──そうなのか。なんだかもったいない話だね。
カワチ:そんなさちは、4年前に行き場のない敗戦国の少女・まなを拾って自分の部屋に同居させている。まなはさちに絵を描いて欲しくて彼女に画材道具をプレゼントするんだけど、絵を描きたくないさちは、「まなが寝ているときに描く」と誤魔化しているんだ……。
──いろいろままならないってことね。
カワチ:そんなさちは、ある日町の外にある洞窟に宝が眠っていることを知り、それを手に入れて一発逆転を狙おうとする。お金で義務を取り消そうってわけさ。
──お宝ねぇ……なんだかうさんくさいけど。
カワチ:洞窟に侵入したさちは、途中でみぞにはまってしまうといったアクシデントはあったものの、ダイヤを見つけることに成功する。
──ええ、お宝が見つかっちゃうんだ!? てことは、それで義務のことは解決しちゃうの?
カワチ:そう簡単にはいかないよ。じつは、さっき話したまなが、人身売買によって南方の王国に売られることになってしまうんだ。国王の世話と言われているが、もちろん言葉どおりの意味ではないぜ。大人だしその意味はわかるよな……。
──あ、ああ。“そういう世話”をさせられるってことだろ? 最悪じゃないか!
カワチ:ああ。だからさちは、ダイヤを売ってまなを買い戻そうとするんだが……。
──だが? だがってどういうことよ!?
カワチ:相手に値段をつり上げられてしまい、結果的にさちは失敗するんだ……。
──うわぁ、マジかよ。ひでえ……。
カワチ:しかし、そこで賢一はさちに提案するんだ。絵を描けと。
──ハァ!? ここで絵とか、いったいどういうこと? 意味が分からん。
カワチ:さちが絵を描き、それを賢一が買い取る。そのお金でまなを引き留めるというんだ。
──いやいや、相手は王様なんでしょ? そんなことやっても勝てないでしょ!
カワチ:賢一は以前、会社を経営していたこともあって、莫大な資金をもっていたんだよ。
──いやいやいや、それはちょいと都合がよすぎないか!? なんなんだよ、その主人公は!
カワチ:特別高等人というのは、最高権力の公務員だからな。それを目指す賢一は、昔からいろいろな教育を受けているんだよ。まぁそんな彼の壮絶な過去も、ちゃんとゲームで明かされるからじっくり遊んで見てみるといい。
──そうだな。その部分はあとでじっくり楽しませてもらうわ。ほかのヒロインたちがどんな義務を背負っているのかも気になるしな……。しかし、主人公も金持ちだったのなら自分で助けてあげればいいだろうに。
カワチ:さちが労働の意思を見せれば、彼女の義務も解消できるからね。ふたりを同時に救おうと思ったのさ。
──なるほどな。
カワチ:ただ、さちはいざとなったら賢一が救ってくれるという甘えもあって、真面目に絵を描こうとしなくてな。
──そんな! まなの人生がかかっているんだろ!?
カワチ:ずっと怠惰に過ごしてきた人間は、そう簡単には変われないってことだな。彼女は次第にストレスを溜めていき、自分の技術や道具、社会にまで難癖をつけるようになる。
──おいおい、どうにかならないのかよ!
カワチ:賢一はそんなさちの活動時間を12時間から10時間、そして8時間と圧迫していくんだが、それでも状況は改善しない……。
──1日8時間!? そんなの何もできないじゃないか!
カワチ:ああ。そして、そんななか、自分の期待がプレッシャーになってしまっていると考えたまなは、家を出て行ってしまうんだ……。身寄りなんてないのにだぜ?
──どんだけ健気なんだよ……。まなー!!!!!!!!!!!!!!
カワチ:そこでようやくこれまでの行動を反省したさちは、いよいよ真剣に絵を描くようになっていく。賢一もそんなさちの様子を見て、彼女の活動時間を元の12時間まで戻すんだ。
──頼む……間に合ってくれ!
カワチ:さちはボロボロの身体になりながら、気迫を込めて描き続ける……。
──ごくり。
カワチ:そして、お金を振り込まなければまなが買い取られてしまう日……。
──絵は!? 絵はどうなったんだ!?
カワチ:絵は完成した。
──よかった。本当によかった。どうなることかと思ったがハッピーエンドだな。
カワチ:……しかし、まなは納得しないんだ。
──え?
カワチ:さちなら、もっとすごい絵が描けると言うんだ。
──いや、そうだとしても完成はしたんだろう? 自分の身が危ないというのに何を言っているんだ、まなは!?
カワチ:ここで妥協したらさちはいよいよダメになってしまうと思ったまなは、さちとお別れすることを選ぶんだ……。
──まな……。
カワチ:ここまで話してわかっただろう? 人間に与えられた時間の大切さ、そして絵を生業にして生きていくことのたいへんさ……1週間あれば間に合うとか言って、余裕をかましている場合じゃないんじゃないのか?
──うっ……。
カワチ:完成させるだけじゃあダメなんだよ。完成させることは当たり前、そこからクオリティを高めることを考えないとな。それに持っていく原稿は1つじゃなくてもいいんだろ? 時間が許す限り2つでも3つでも作品を描けばいいじゃないか!
──あぁ、そうだな。ただ編集者を紹介してもらえるってだけなのに、俺は浮かれていたよ。むしろ勝負はこれからはじまるっていうのにな。
カワチ:目が覚めたようじゃないか。
──おかげでな……。ありがとうマスター。俺、さっそく作品に取り掛かるぜ。シャンパンごちそうさま。
カワチ:もし掲載が決まったりしたら教えてくれ。それこそ、シャンパンくらいおごらせてもらうからな。