面白法人カヤックの新たな施策「ゲーム宣伝部(ゲー宣部)」の発起人である畑佐雄大が、自身が気になるクリエイターたちを直撃! その人となりを掘り下げていくインタビュー企画が、この「カヤックゲー宣部・畑佐が往く」である。
第4回目となる今回は、『ダンガンロンパ』などのプロデュースを担当し、昨年スパイク・チュンソフトを離れてサイゲームスで新たなキャリアの路を歩み始めた齊藤祐一郎さんが登場。古巣を離れることを決意した経緯から、新天地でチャレンジしていること、そしてクリエイターとしての質を決める「インプット・アウトプットの重要さ」など、さまざまなお話をお聞かせいただいた。
▲齊藤祐一郎さん(写真左)、畑佐雄大(写真右)。
■齊藤祐一郎がゲームクリエイターを志した理由
畑佐雄大(以下、畑佐):齊藤さん、本日はどうぞよろしくお願いいたします。まずは、齊藤さんがどうしてゲームクリエイターを志したのか……その原点からお聞かせいただけますか?
齊藤祐一郎さん(以下、齊藤):承知しました! ただ、じつのところ僕は最初からゲームクリエイターを目指していたわけではないんですよ。もともと人と会話するのが好きだったこともあり、大学卒業後は大手のパチンコホールに就職しました。接客も苦ではありませんでしたし、そのグループは当時、アミューズメント施設(ゲームセンター)も経営していたので、多くの人間と触れ合うことができる。そこから何か面白いことが生まれそうだと考えて決めたんです。
畑佐:なるほど。では、どこかで転機が訪れたわけですね?
齊藤:はい。仕事を続けていくなかでいつしか「もっと形として残る仕事をしてみたいな」と思い、スパッと辞めることになりまして(笑)。そのあと、次の仕事を見つけるまでのアイドリング期間に『喧嘩番長』をプレイしたことで、流れが変わることになるんです。
畑佐:『喧嘩番長』! PlayStation2で、当時はスパイクからリリースされていましたね。
齊藤:これを夢中でクリアしたあとに転職サイトを見ていたら、偶然にもその『喧嘩番長』の開発会社の求人情報を見つけたんですよね。当時は絵も描けませんでしたし、プログラミングもできませんでしたが、要項には「経験不問」と書かれていたので、“面白いことなら考えられるぞ”という妙な思い込みがあって、すぐに応募しました。
畑佐:そうして就職が決まり、ゲーム業界でのキャリアがスタートしたわけですか。
齊藤:ええ。その根拠のない勢いを買われ企画職でうまく拾い上げてもらえました(笑)。そこで 縁のあった『喧嘩番長2』のプランナーを務め、そのあとWiiで発売された『JAWA~マンモスとヒミツの石~』でメインプランナーに。スパイク社(後のスパイク・チュンソフト社)と、直接やり取りするようになったのはちょうどこの辺でしたね。
畑佐:スパイクとなると、齊藤さんがのちに所属することになる会社ですよね。
齊藤:ええ。『JAWA』の開発が終わった頃に、「開発を専門とするデベロッパーは担当したタイトルがマスターアップしたらそこで終了だけど、パブリッシャーはその先の販売まで含めた展開も続けていく。自分が担当したゲームについてもっと関わっていきたい」と思い始めたんですよ。開発現場で3年ほど働いた経歴もあって、また根拠のない自信も芽生えてきていたんでしょうね(笑)。アシスタント・プロデューサーを募集していたので勇んでエントリーしてみたら見事採用されまして、それが25歳のときでした。
畑佐:スパイクに転職後、『ダンガンロンパ』で寺澤善徳さんと組むことになるわけですよね。
齊藤:そうです。転職2年目くらいで寺澤さんと一緒にお仕事をさせてもらうことになりました。寺澤さんと数年をともにした後に担当した『ダンガンロンパ』のときには、もうアシスタントプロデューサーからアソシエイトプロデューサーとして、「超高級のAP」を自称しつつ、いろいろなことを任せてもらっていましたから、忙しくも楽しいお仕事でしたね。
畑佐:失礼ながら、なかなかに“濃い”経歴ですよね(笑)。人生そのものがエンターテイメントという感じで、いかにもゲームクリエイターらしい感じもします。
齊藤:どうでしょう。正直、何がなんでもゲーム会社に入りたい、という強い思いで始まった道ではありませんでしたけどね(苦笑)。いい会社といい人と巡り合い、そこでおもしろいことをやってきていたら、いつの間にか今に至ったという感覚です。
畑佐:ゲームそのものは、少年時代からやっていたんですか?
齊藤:5歳上の兄がいて、ファミリーコンピューターなど、兄がやっているものは僕もやるという感じでした。もともと家が学校から遠い場所にあって、帰り道に友人が遊びに来てくれるような環境じゃなかったんです。そのため誰かを招くためのソフトは購入基準にはいらなかったのでアドベンチャーやRPGなど、一人で遊べるジャンルのゲームがはまりやすいタイトルでしたね。家で友だちと遊んだのは、スーパーファミコンの『ストリートファイターII』くらいかな。
■新たなる挑戦──スパイク・チュンソフトからサイゲームスへ
畑佐:いろいろな作品に携わり、表に出る仕事も多くこなされている齊藤さんですが、昨年2017年にサイゲームスへと転職されました。そのきっかけはなんだったのでしょうか?
齊藤:もともと、スパイク・チュンソフトでの仕事に不満はありませんでしたし、もしそのまま残っていたとしても、大きな仕事を任せてもらえるような信頼を幸いにもいただけていました。ただ、35才という自分にとっては節目と感じる年齢に立ち、自分の感性が生きているうちにあとどれだけ無茶なことができるか、より挑戦的なことができるか、を考えるようになっていました。
その中で、スパイク・チュンソフトでだからこそ出せる強みと、自身がやってみたいアイデアにズレが出てきてもいたんです。歳のせいもあってか、「もっとこうしたい! ああしたい!」という自分のわがままな部分がさらに顔を出してきまして(笑)。
畑佐:単刀直入に言ってしまえば、これまでよりもっと自由に、もっと規模の大きい展開を試してみたいと思われたわけですかね?
齊藤:単刀直入過ぎません?(笑) ……と言うよりは、もっとわがままになろう、と。そんなとき、サイゲームスの取締役である渡邊耕一さん……今の自分にとっては上長になるわけですが……と出会う機会があったんです。そこで話しをしているなかで、「サイゲームスで最高のコンテンツを目指してみないか」とアプローチをしていただきまして。「この人と仕事をすると面白そうだぞ」と。
畑佐:齊藤さんのエンタメアンテナに響いたわけですね。
齊藤:はい。最初にお話したのはお酒の席だったということもあり、改めて話す機会を作ってもらいました。そこでいきなり、会社案内で全フロア見せてもらうことになりまして。突然のお申し出だったので僕はもちろん、人事担当者もビックリしていました。そこで見せて貰ったなかには、自社で開発中の未公開タイトルの状況も……。包み隠さずに懐をすべてさらけ出すという、今思えばいかにも渡邊さんらしい漢気を感じるアプローチでしたね。
畑佐:ものすごく熱い展開じゃないですか!
齊藤:そうなんです。その心意気に打たれ、また説明してもらった仕事の内容や環境もじつに魅力的だったので、「ここでなら自分がやりたいことが実現できそう」と思い、転職を決意しました。昔は有名大作ゲーム以外にも、ミリオンセールを狙えるタイトルが多くあったのに対し、今はそうした夢をなかなか見られなくなっている時代です。会社全体で最高のコンテンツを作るという意気込みの人たちと仕事をすれば、それが本当に夢物語ではなくなる未来がくるのでは……そう思えたことが、サイゲームスに合流した一番の理由ですね。
畑佐:じつは、自分にとって齊藤さんはコンシューマゲームのイメージが強いんです。一方、サイゲームスさんはアプリゲームのイメージが強いわけですが、ご自身は今後、どう動いていくビジョンなのでしょうか?
齊藤:青春時代にアプリゲームがまだなかった世代を生きたクリエイターの中にはコンシューマが花形で、そのあとにアプリゲームがあるというイメージを持っている人も少なくありません。その一方で、モバイル端末のアプリに対応するハードとしての性能は格段に向上していて、表現の幅は大きく広がっています。作り手の感覚も、「性能が上がったからこういうことをしよう」といった、かつて次世代機と呼ばれたゲーム機へのアプローチに似た感覚になってきていると思うんです。
畑佐:なるほど。昔ほどコンシューマとアプリの間に、大きな壁はなくなった時代ですよね。
齊藤:もはや入り口が違うだけの話なので、これまでコンシューマ畑であった自分としても、拒絶反応などはまったくないですね。ネイティブアプリが出だした頃から、常時数タイトルは遊んでいるユーザーでもあるので。
畑佐:ゲーム好きな方のなかにも、コンシューマタイトルは最新作をなかなか遊べないけど、アプリはつい遊んでしまうという方が増えてきていると聞きますし、ライフスタイルにあった遊び方ができるのはアプリゲームの大きな利点ですよね。
齊藤:コンシューマは「こういう話が好きな人や、こういうゲームシステムが好きな人に楽しんでもらおう」という明確なアプローチがあります。対してアプリは、電車の移動中などのちょっとした空き時間にも楽しめるゲーム性が求められるわけで、そもそものアプローチ方法が違うんです。
コンシューマでは想定ユーザーが小規模すぎて、そもそも商品にすら出来ないと判断されるような企画でも、アプリであればコンシューマタイトル同等以上のコストをかけてクオリティを出していける企画もあると思います。そのあたりは、両方やっている会社の方が横で話しやすいですよね。上手く組み合わせてクロスで開発していくことで、ユーザーにもアピールできる部分が出てくるかと。
畑佐:今のお話だと、どっちもやってみたいという気持ちなんでしょうか?
齊藤:そうですね。やりたいという気持ちで言えば、両方です。現在は新規のプロジェクトを立ち上げているのですが、自分としてはかなり意外な内容に仕上がりそうだと思っています。入社してすぐに「まずは企画書を3本ほど提出してほしい、3日くらいで」と言われたので、1日1本書きました(笑)。それぞれボリュームが違うものを3つ用意しつつ、「3本」と言われたのでもう1案プラスして4本。コンシューマとモバイル、それぞれ2本ずつになりましたね。そのなかで一番手間をかけた企画を進めさせてもらっています。
畑佐:一番手間をかけて企画……すなわち、一番やってみたい企画だったということですかね?
齊藤:そのとおりですね(笑)。OKが出るのもすごく早くて。サイゲームスでは「面白そうだね、やってみれば?」というところから入るので。
畑佐:それはいいですね。クリエイターにとって素晴らしい環境だと思います。
齊藤:予算などの数字を軸とした話ではなく、「それは面白いの? ワクワクさせられるの?」という点を重視されているので、企画が進んでいくスピードが段違いに早いと感じます。
畑佐:クリエイター冥利につきますね。それができるのが、サイゲームスさんの強み。
齊藤:今までは、イラストを誰に頼むかといった部分も本当に悩みどころだったのですが、サイゲームスは社内のデザイナーさんのレベルも高くて。何人か紹介していただいたなかで、最初に話した人とフィーリングがあって、今回の企画はその方にお願いしました。
畑佐:気になりますね。どんな企画なんでしょう?
齊藤:もう少し具体的に企画が動き出したら、もっといろいろ話せると思います。少々お待ちを(笑)。ただし、とにかくクオリティが重要になるので、制作期間がどれくらいになるかはさっぱりわかりませんが……。
■面白いものを「狙って作り上げる」ことの難しさ
畑佐:クオリティを上げるためなら、ある程度時間をかけることが許されているわけですよね。今、クオリティベースに重点を置いて開発ができるというのは、環境としてかなり珍しいのでは?
齊藤:面白いものを作るのは当たり前として、ユーザーに期待を抱いていただけるもの、面白そうと思ってもらえる部部分をどれくらい構築していけるか。それはたとえばプロモーションの手法ひとつとってもそうで、「いかにして魅力的なコンテンツを展開していけるか」を考えている人たちが、サイゲームスには集まっているように思います。僕が今まで考えていた「これは無理だろう」という風呂敷も、それが面白いのであれば実施することができる。そうして広げていったところから、また新しい最善手が見えてくることもあるでしょうし、とてもエキサイティングですよ。
畑佐:とてもうらやましい環境です。
齊藤:本当にいいタイミングで、企画を進められたなと思っています。自分がクリエイターとして、まだ油が乗っているタイミングでチャレンジできるのがありがたいです。
畑佐:本当にいいタイミングだったのかもしれないですね。そんな齊藤さんは、『ダンガンロンパ』などの「白黒あわせ持つ」作品性が得意であるというイメージがあります。これからもそのイメージを貫き通すことになるのでしょうか? それとも、より新しいことを始められるのでしょうか?
齊藤:僕は見た目も性格も白黒になっているので、そこはブレずにいきたいですね(笑)。善悪の両方が好きなんですよ。今、サイゲームスというと「王道」の部分がとくに強いと思いますが、じつは僕自身は、そういう王道の環境で王道のものを手掛けるというモノ作りをやったことがないんです。だから、サイゲームスが持つ王道に僕のような白黒の感性が入ったら、いったいどんな反応をするのか、自分自身も楽しみなんですよね。
王道部分に覆われて白く染まってしまうのか、はたまた、外面は真っ白だけど、半分に割ってみたら大福のように中身は真っ黒だったりするのか? 今までは陰陽を最初から見せざるを得なかったのですが、今回は「あえて隠す」という見せ方もできますから。そこで面白いところを狙えるかなと思っています。
畑佐:環境だけでなく、クリエイティブな部分も新境地なんですね。すごく、生き生きされているのが伝わってきます。
齊藤:「こういうものを作っていこうぜ」と進めていくなかで、狙い通りにハマった瞬間が1番うれしいんです。以前は「狙っていた以上のもの」に仕上がったり、「予想外に面白いもの」ができたりしたときに喜びを感じていたのですが、プロデューサーとして考えると、そういったサプライズを喜ぶのはどうだろうという思いもありまして(笑)。
全体の舵取りをしなければいけない立場なので、「アメリカに行こうとしてカナダについちゃった。でも楽しいからいいよね」ってなるのは、ちょっと違うよなって。アメリカに連れていくよと言った立場としては……やはりアメリカに到着したうえで、このうえなく面白い旅にしないと意味がない。勢いはもちろん大事なのですが、今は何より、狙ったとおりに着地させて、そのうえで面白いものに仕上げることを目標に考えています。僕も大人になったなぁと(笑)。
畑佐:大人……ですか(笑)。もう少し若い時は、サプライズ感が重要だったと?
齊藤:そうですね。尖っていればというか、面白ければなんでもいいじゃんという部分があったと思います。今は面白いことはもはや当たり前であって、それをストレートに提示するのは楽であり、難しい部分もある。面白ければ何でもいいで突き抜けられる人は、僕以上の人がたくさんいる。そこで勝負していこうというより、刺さりすぎて痛かった部分をうまく調整し、いいさじ加減にできた時が楽しいですね。
畑佐:プランナーから、プロデューサーとしての色が強くなった印象がありますね。
齊藤:仕事が年々楽しくなっています。
畑佐:すごい。たぶん、そう言える人は少ないですよ。
齊藤:楽しくないのに働くのが嫌なので、自分で常に楽しいことを探しているんですよ。今、あえてこれをやるのが面白いんじゃないか……とか、人から見たら苦しそうなことでも、僕は楽しんでやっていたりすることはあります。
畑佐:天性のクリエイター気質ですね。
■インプットとアウトプットが必要──齊藤祐一郎が考える「クリエイターの資質」
畑佐:齊藤さんが考える、クリエイターの資質はどこだと思いますか?
齊藤:どのポジションを目指すにしても必須だと思うのは、「常に面白いことを考えている」ということ。これに尽きますね。ゲーム開発はプランナーがいて、デザイナーがいて、プログラマーがいて、そこで完結すると思われがちですが、実際はそんなことなくて。作品を知ってもらうための広報、宣伝がいて、小売店に売るための営業がいて、そういう人たちが働くための人事、総務もいます。開発を進めるなかでは契約も必要ですし、スタッフのPC環境を整えることも必要。開発に直接携わっていない人でも、作品のためを思って考えていれば、できることは必ずあるんですよ。
ユーザーに楽しんでもらえる広報戦略とか、スタッフがより効率的に動くための人事案とか、本当になんでもあるんです。そういったことを常に考え続けることができるスタッフは、とてもありがたいし、この仕事に向いていると思いますね。こちらとしても仲間意識が変わってきますし。
畑佐:なるほど。
齊藤:逆にいうと、資質はそれくらいじゃないでしょうか。あとは本人の努力や才能でどうにでもなると思います。こういう人しかできませんという仕事ではないです。志がある人が集まれば、絶対に面白いゲームが作れますからね。
畑佐:結局は、自分が楽しめるかどうかなんですかね。
齊藤:自分が楽しいことを追求したうえで、それを自信を持って他人に提案できるかも重要です。「こんなアイデアはどうでしょう。面白いかはわからないんですけど」って言われたら、こちらも「いや、それは俺にもわかんないよ」ってなりますよね? 「こういうアイデアがこういう理由で面白いと思うので、ぜひやってみませんか?」と言ってくれるだけで、印象も全然違います。
畑佐:頭の中にアイデアがあるだけでは、どうしようもありませんからね。それを他人に伝える努力は必要です。
齊藤:アイデアをアウトプットできる人って、じつは少ないのかもしれません。でも、吐き出していかないとクリエイティブにつながっていかないので。面白い企画書を書く人は、日頃からどこかおかしなことを言っている人が多いです。面白い、ぶっとんだ企画書も、いろいろな企画書の屍の上に成り立っている。アウトプットをできる人はインプットもできている人なので、どんどん弾を吐き出していくといいと思います。
畑佐:何かアウトプットのコツなどはあるのでしょうか?
齊藤:場数をこなすことですね。本人が「やろう!」と思ってやらないと、機会は永遠にこない可能性すらあります。たとえば素敵な映画を見て自分のなかにインプットがあっても、その感想を他人に話したり、ブログに書いたりしないと、アウトプットはできない。今はTwitterなどのSNSも発達していますし、そういった場で自分が考えたことを吐き出しているだけでも違ってくると思います。
アウトプットを残しておけば、どこかのタイミングで「あの時自分はこんなことを考えていたな」と思い返すことができますし、そこから何かが生まれることも少なくありませんので。
畑佐:たしかに。それもアウトプットあってこそですよね。
齊藤:そのアウトプットが今すぐ形にならなくても構いません。そのときはアイデアに繋がらなかったとしても、また別のインプットがあった瞬間に突然「これをこうすれば面白くなるのでは?」と連結する瞬間が来ますから。いろいろと取り込み、そして吐き出していくうちに、前回はこれが受けがよかったから今回はこうしようとか、少しずつ成功までのプロセスもわかっていきます。
畑佐:インプットとアウトプットを続けていくこと……それこそが齊藤さんの考えるクリエイター像なんですね。ではここで、齊藤さんの人となりをお聞きしたいと思います。プレイして影響を受けたりした、大好きなゲームはなんですか?
齊藤:『かまいたちの夜』ですね。スーパーファミコンであのサウンド、グラフィック、テキストを作り出してしまうんですから、本当に神がかっていると思います。1人で遊んでも楽しいし、みんなで遊んでも楽しいのがすごい。
畑佐:べた褒めですね。
齊藤:べた褒めですよ! 僕は母と30ほど年齢が離れているのですが、『かまいたちの夜』は初プレイが小学生。中学くらいのときには、家族を巻き込んでやいやいと楽しんでいました。犯人が誰かを家族ぐるみで考えながら遊んでいたんですよ。そういう遊びができるソフトって、なかなかに稀有だと思います。決められた流れで物語が進んでいくRPGなど、1人で没頭できるゲームももちろん楽しかったのですが、『かまいたちの夜』には、これまでとは違ったゲームの楽しさを教えてもらいました。
畑佐:あの作品は本当に衝撃的でしたよね。
齊藤:本当に。今でもなんらかのハードに移植されて発売されたら、つい遊んでしまうほどですからね。あの作品を成り立たせてしまった時代もすごかったと思います。「サウンドノベル」というジャンルが成立し、企画として受け入れられた当時のカルチャー、ムーブメントからしてスゴいんですよ。
畑佐:たしかに。今あの形の作品が発売されても、あそこまでのムーブメントになったかどうかはわかりませんからね。
齊藤:そういうムーブメントを今の時代でまた作れないかなと思っている部分はありますよ。コンシューマで何らかの大きな波を生み出す。理想として追い続けたい夢です。野心といってもいいですね。
畑佐:齊藤さんが生み出すムーブメント……サイゲームスでの今の環境であれば、それを成し遂げることもできるように思います。では、次の質問を。齊藤さんは作品を作るうえで、自身の経験を元にアイデアを固めていくのか、はたまたご自身の経験の中にないものを作っていくのか、どちらでしょう?
齊藤:どちらもですね。インプットとアウトプットの話に近いのですが、面白いものを考える人はめちゃめちゃ遊んでいるか、まったく遊んでいないか、そのどちらかだと思います。
畑佐:具体的にはどういう意味でしょう?
齊藤:めちゃくちゃ遊んでいる人は、エンターテイメントにたくさん触れているぶん、とにかくインプット量が多い。なので「この前経験したアレは面白かったから、コレにいかせるんじゃないか」という感じで、実体験からアイデアを具現化していけばいいんです。
畑佐:では、まったく遊んでいない人はどうなるのでしょう? インプットが少ない人は、必然、アウトプットも少なくなるのでは?
齊藤:ちょっと違いますね。インプット自体はたくさんあるべきなんです。ただ、それが実体験であるかどうかがポイントになるだけであって。まったく遊んでいないのにアウトプットができる人は、たとえば本や映画、極端な話、仕事の中からでも何かを思い付き、それをアイデアとして引っ張ってくることができる。そういう人は、SFやファンタジーで天才的な才能を発揮できると思うんです。
畑佐:なるほど。
齊藤:藤子不二雄先生なんかは、まさにこちらのタイプだと思うんですよね。どこでもドアのアイデアは、自分が仕事が忙しくて全然旅行に行けないからこそ生まれたものだと聞いたことがあります。自分が遊べないからこそ、より簡単に遊ぶためのアイデアを考える。これは実体験が伴わないからこそ、生まれたアイデアだと思います。
畑佐:そういうことでしたか……納得です。かくいう齊藤さんは、どのような形でインプットをためていたタイプでしたか?
齊藤:自分はもともとは地方に住んでいたので、外からのインプットは少なかった人間です。今でもインドア派なのですが、当時は誘われる機会もなかったので、本を読んで「こんな世界もあるんだ……」と思いを馳せていました。
畑佐:なるほど。実体験からではなく、本などからインプットを得ていたわけですね。
齊藤:ところが、東京に出てきてからはいい意味でも悪い意味でも誘惑があって、こうなったらそれらも全部飲み込んでみようと思い立ち……。今では外で遊ぶことも、インドアなことも両方受け入れられるようになりましたね。
畑佐:ハイブリッドじゃないですか! そこから生まれる何かが、とても楽しみです。では最後に、ゲームクリエイターを目指している人に向けて、一言アドバイスをお願いします。
齊藤:楽しいことを考える、吐き出すと言いましたが、まずはとにかく考えることが大事です。WEBが発達した現代において、情報を手に入れることはとても簡単なことで、ネットを見れば多方向からの意見を知ることも難しくありません。だからといって、それに流されてしまったら、本当に面白いものは作れない。「みんながこうって言っているからこちらにしよう」と安易に動いていたら、そこから得られるものは何もないんです。
大切なのは、物事を本質を考えること。先ほどの例でいえば、「みんなはこうだと言っているけど、では、何でこうなんだろう?」という背景まで考えてみることが大事だと思います。
畑佐:なるほど。インプットをするにしても、ただ情報を入れるだけではなく、自分でしっかりと咀嚼してからにすべきってことですね。
齊藤:そのとおりです。これはゲーム作りというよりも、この社会のなかで生きていくうえで大切なことだと思いますが。考えるということは、じつはとても楽なトレーニングなので、とにかく実践してほしいです。想像することや妄想を膨らませるすることも大切。ただし、それを自分の中だけで完結させるのはもったいないので、他者とコミュニケーションをして吐き出していく。先ほどから何度も言っていますが、このインプットとアウトプットこそが、モノづくりの本質だと考えます。
畑佐:お話を聞けて楽しかったです! 本日はどうもありがとうございました。齊藤さんの新プロジェクトに期待しています。
齊藤:まだもう少し時間はかかりますが、お話しできるタイミングになったらすぐにお知らせしますので、ぜひ楽しみにお待ちください!
テキスト:タダツグ(Tadatsugu) シシララTV編集部、電撃編集部などで活動中のゲームライター/編集。生放送にも出演中。いつまでも少年の心を忘れないピーターパン症候群を自認するケツ合わせ系テキスト書き。好きなゲーム:『ニーア』シリーズ、『ヴァルキリープロファイル』シリーズ、『ペルソナ』シリーズ、『パズル&ドラゴン』など多数。
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