舞台「少年ヨルハ Ver.1.0」ゲネプロレポート──「私は、この舞台で、泣けなかった」
2017年の2月発売され、まもなくちょうど1周年を迎えようとしているスクウェア・エニックスの人気アクションRPG『NieR:Automata(ニーア オートマタ)』。全世界で200万本のセールスを達成したこの人気タイトルの世界観をベースにしたオリジナルストーリーが、このたび舞台化されることになりました。それが「少年ヨルハ」と「音楽劇ヨルハ」です。
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ゲームと世界観を共有しながら、男性キャストと女性キャスト、2種類の異なるシナリオで描かれるふたつの物語。その魅力とはいったい──?

今回は、現在絶賛公演中であっという間にチケットが完売したという「少年ヨルハ Ver.1.0」について、ヨコオタロウ関連作品について書かせたら熱くて、くどくて、こってり系なフリーの文章書き・サガコが、ゲネプロレポートをお届けします。
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【警告:このレポートでは、シナリオを担当したヨコオタロウのコメント、および物語におけるネタバレが確認されている】

はい、『ニーア』歴およそ7年のサガコです。普段は電撃オンラインなどで記事を書いたり、小説やシナリオを書いたりしております。今回、舞台「少年ヨルハ」のゲネプロを観て、その感想を述べようという主旨の記事な訳ですが、いやはや難しい仕事を請け負ってしまったといまさら後悔しております。

この舞台、チケットこそ完売していますが千穐楽の2/4夜にはニコ生での中継も行われ、その後はBlu-rayの発売も控えています。「私はこの目で観るまで情報をシャットアウトしたい!」という人は、ネタバレ込みの記事ですのでどうぞお気をつけくださいませ。

「舞台 少年ヨルハver1.0」2月4日夜公演ネット視聴チケット (本編+タイムシフト)
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■ゲームの世界を完全再現! ヨルハ部隊(♂)が目の前に……

さて、ストーリーについてはあとから語るとしまして、芝居が始まってまずパッと目を引いたのが、世界観を形作るのにとても重要な衣装と映像でした。

『ニーア オートマタ』で、2Bや9Sたちが身にまとっていた全身黒ずくめのコスチュームとゴーグル。みなさんご存知の通り、これはあらゆる意味で「ヨルハタイプのアンドロイド」を象徴する、いわばキーアイテムです。これが本当にしっかりとした質感で作られているのが、遠目の客席からもよくわかるほどでした。

服のデザインはメンバー個々で微妙に異なっていて、たとえば足元を見るだけでもこだわり満点。短めのハーフパンツにスパッツだったり、ハイソックスだったり、ソックスガーター付きだったり、かと思うと深いスリットの入ったロングコートや長いマントで隠れていたり……。何も衣装を見に来たわけではないのに、ついつい目が行っちゃうしかっこいいしで、改めてヨルハデザインのフェティッシュすぎる素晴らしさに唸るしかありません。
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また、舞台のみならず、客席全体にかなり濃いめのスモークがかかっている点も特徴的。うっすらと煙っていて「どうしてこんなに煙らせてるのかな? 見えづらくならないのかな?」と思ったわけですが、舞台正面へプロジェクターからの映像が投影されるとすぐに納得できました。

プロジェクターからの光がスモークに当たり、まっすぐに降り注ぐ陽光のように見えたのです。さながらゲームの主要な舞台である廃墟都市や深い森のなかにでもいるようで……ここでも「おお」と小さく感嘆。岡部啓一さんや帆足圭吾さんらMONACAのスタッフが手がけた音楽とも相まって、そこはすっかりあの西暦一万年を越えた先の、アンドロイドと機械生命体が戦い続ける過酷な戦場と化した地球を想起させる空間に変化していました。
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そして、いよいよはじまるのです。『ニーア オートマタ』の前日譚ともいえる、ヨルハM部隊の苛烈な物語が――。

■至るところにヨコオ節! これは『ニーア』の系譜であるという確信

一度観ただけの翌日で、まだ消化しきれていない状態のため、うまく言葉にできないのですが……今回の「少年ヨルハ」は、『ニーア オートマタ』よりもシリーズ処女作である『ニーア レプリカント/ゲシュタルト』の雰囲気に、より近い印象を受けました。受け止めた感覚とでもいえばいいのか、絶望の度合いとでもいうのか、いびつさというか尖りっぷり、アンバランスさ、あやうさ、はたまた熱血度数とでもいえばいいのか……もう何が何やら。どうしてそう感じたのか、その理由を自分自身でもまだ分析しきれていない状態で、ああっ、なんてもどかしいんだッ! とはいえ、私の率直な感想をそのまま言葉にすれば

「この舞台は、ものすごくものすごく『ニーア』だった!!」

ということになります(断言)。
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兄ニーアが妹ヨナを守るべく戦った物語『ニーア レプリカント』は、ヨコオさんいわく、いわゆる「少年マンガの王道を目指して作られたタイトル」でした。某有名雑誌の少年マンガ要素といえば「努力・友情・勝利」ですが『ニーア レプリカント』は、まさしくその3大要素を押さえた物語でした(ただし、ヨコオさんというフィルターを通して)。

かたい友情(?)で結ばれた仲間たちとともに、妹のためにと人知れず努力を重ねた(体を重ねた?)ニーアが、最終的には魔王を倒して勝利(?)して、勝利した結果とんでもないことになってしまうという──希望の末に絶望しかないという、超八方塞がりな物語ではありましたが。

『ドラッグ オン ドラグーン』シリーズや『ニーア レプリカント/ゲシュタルト』に顕著だった、この身悶えするような切なく昏い(くらい)絶望感は、ヨコオタロウファンにとってはまさしく「ご馳走」であった一方、同時に「ニッチ」で「遊ぶ人を選ぶ作品」で「そもそもどうかしてる」と言われる一因であったように思います。

そしてそれを大きく覆し(?)、きちんとしたハッピーエンド(!?)が待っていたのが大ヒットした『ニーア オートマタ』であったわけです。むしろ『ニーア オートマタ』の真エンドは幸せすぎて驚いて、今更ながらに私は物足りなさを感じていたのかもしれません。

そこへきて、この「少年ヨルハ」が!
火を吹いてきやがったのです。
丸焦げです。もう業火です。
少年たちが織りなす、努力と友情と。
勝利をもぎ取ろうとするが故の狂気と、絶望と、呪いとが。
哀しくて、切なくて、苦しくて苦しくて。
刃を振りかざし、斬りかかり。
三号と四号の……二十一号と二十二号の……レジスタンス達の……教官と六号の……。
そして、二号と九号の――。
号泣するような叫びが舞台にこだました時に、確信しました。

「少年ヨルハ」は、紛うことなき『ニーア』の系譜に連なる作品である──と。
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■絶対に2回以上観たほうがいい、そのほうがよりしんどい!!

誤解を恐れず、ひとことで言うなら「しんどい」。しんどいんです、この舞台。だから私は、ゲネプロで泣けませんでした。気圧されるとはまさにこのこと。終盤に近づくにつれ、演者さんの熱演に圧倒され、「泣くことすらできなかった」。

気がつくと口がぽかんとマンガのようにあいていて、最後に拍手を送るのすらやっと。呆然とするほどの疾走感と圧力でした。

そんな舞台の「少年ヨルハ」ですから、可能であれば2回以上観るべき舞台としてオススメしたいです。シナリオとしてこのあと何が起こるかわからない状態で観るのと、ストーリーラインを把握している状態で観るのとでは、前半~中盤にかけてのシーンの重みがまったく違って見えるのではないかと。少なくとも、パンフレットのテキスト執筆を請け負った関係で、初期脚本を知っていた私ですら「もう一度観たい!」と痛烈に思っています。
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ヨルハM部隊のみんなが笑いあって、ただ話しているだけの数分がたまらなく愛おしくなる……ヨコオ脚本の真骨頂とも言える「どうしようもない愛おしさ」を覚える瞬間は、その物語がいかにして終わるかを知っているからこそ、より深く、刺さるように味わえるものではないでしょうか。

■この熱量を生み出している「ブラックボックス」な演者とカンパニーの皆さんがスゴイ!!

なんといっても、とてつもない感覚を生成して観客に遠慮もなくぶつけてしまう、この舞台の凄まじさたるや。その熱はまずもって演者から生み出されていることは間違いありません。とくにヨルハM部隊の面々は、ただでさえ見えづらいゴーグルを装着して、いったいどうやってあれほどの殺陣、アクションをこなしているのかと舌を巻きます。「プロ根性」なんて安直な言葉では説明できない熱量。
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やがて狂い、叫び、散っていく──おそらくは千穐楽まで、一公演ごとに燃え尽きるようにして彼らは演じきるのでしょう。それこそヨルハM部隊の誰もが、命を燃やし尽くして生ききったように。

ヨルハのブラックボックスが毎度暴走するかのような勢いで、千穐楽まで乗り切っていくであろう彼ら。これはもう、あらゆる意味で燃え尽きるであろう少年たちを(現場でなりニコ生なりで)見届けるしかない……心からそう思います。

「舞台 少年ヨルハver1.0」2月4日夜公演ネット視聴チケット (本編+タイムシフト)

そしてご覧ください。この写真たちを。
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▲九号:斎藤直紀(写真右)、二号:植田慎一郎(左)。
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▲二十一号:村田恒(写真左)、二十二号:寺坂尚呂己(右)。
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▲三号:荘司真人(写真左)、四号:小栗諒(右)。
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▲六号:土井裕斗(写真右)、教官:菊田大輔(左)。
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▲レジスタンス/フロックス:田邉俊喜(写真左)、カクタス:インコ(中央)、ロータス:増田朋弥(右)。
舞台をご覧になった方には、このヨルハM部隊、そしてレジスタンスメンバーたちの「ニコイチ写真」にきっと(いや絶対に)共感いただけると信じて。

■最後に気になるアレコレを……ヨコオタロウさんに今後の展望を訊いてみた

さて、ゲネプロの直前に、ヨコオタロウさんにお時間をいただいて、プチインタビューをさせていただくことができました。最後に、その内容をお届けしたいと思います。

──「少年ヨルハ」いよいよ幕が上がります。稽古からご覧になってると思うのですが、現場の雰囲気はいかがですか?

ヨコオタロウさん(以下、ヨコオ):みんな若くて、賑やかで、男子校の部活に紛れ込んだような楽しさがあります。

──ヨルハ部隊の皆さんはヨコオさんが敵視しがちなイケメンが揃っていますが、プラチナゲームズの田浦貴久さん(『ニーア オートマタ』ゲームデザイン担当)みたいに攻撃しないんですか?

ヨコオ:そんなことはしませんよ。これはビジネスですし、僕はオトナですから、イヤイヤながらも冷静に対処します。

──オトナ……ですか……(田浦さんとの関係性はビジネスじゃないのか)。
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▲オトナなヨコオさん。
──すでに2回の公演を経ている、女性キャスト版の「ヨルハ」とはまったく脚本が違いますね。

ヨコオ:元々“男性キャストで舞台「ヨルハ」をやろう”という構想はあったんです。まったく同じ脚本で、キャストだけ性別転換すれば、それはそれでおもしろいのではないかと思っていたんですが……よくよく考えたら、少年用に使える設定も『ニーア オートマタ』の世界観のなかにちゃんとあるし、実際に企画が動き出してみたら、男性キャスト版と女性キャスト版のそれぞれの公演日程がかなり近い。この日程で、同じ脚本の舞台を観るのはさすがにお客さんも飽きるだろうと思い、“ヨルハM部隊”の設定を活用した新作を書き下ろそうということになったんです。

──設定自体は用意されていたとはいえ、脚本に落とし込むのはたいへんだったのでは?

ヨコオ:でも、「少年ヨルハ」の台本は一カ月くらいしか遅れてないですよ。

──……ほほう。(一カ月「しか」……だと!?)

ヨコオ:「音楽劇ヨルハ」のほうは、既存の脚本があって少し変えるだけだから大丈夫だろうとたかをくくった結果、三カ月くらい遅れましたね。

──三カ月!(さらっと言ったよ、この人) それは現場の担当者さんは胃が痛かったことでしょうね(苦笑)。
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▲脚本が遅れに遅れがちなヨコオさん。
──ゲームのディレクションにくわえて、脚本やマンガ原作のお仕事など活動の幅が広くなってきていますが、正直、「もうゲームを作るのはいいや」みたいな気持ちになったりはしていませんか?

ヨコオ:いいえ、そういう気持ちはないです。

──ああ、よかった……ゲームをつくるということは、お仕事としての消費カロリーが高そうに思えたものですから。

ヨコオ:ゲームの現場はもう「勝手知ったる」経験値があるので、起こるトラブルにも対応しやすいですし、かかるストレスも予想の範囲内であることが多いんです。むしろ、こういう舞台の現場などは不慣れなので、予想できないトラブルが起こったりする。その時にかかるストレスのほうがよっぽどキツイですよ。

──だけどそれが新鮮で、新しいものに刺激を受けるという側面もあるのでは?

ヨコオ:新しいことは好きですけど、ストレスは嫌いです。
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▲ストレスを嫌うヨコオさん。
──今日はヨコオさんが「ゲームづくりに飽きてない」ということが確認できて、なんだかこっちがうれしくなりました。大収穫です。

ヨコオ:僕はいつも「自分が飽きないゲームを作るにはどうしたらいいか?」ってことを考えて仕事してるので、そこは心配要らないというか、どの仕事もそういう考え方なんですよ。「自分が面白いと思えるマンガにするには?」とか「自分が面白いと思える舞台にするには?」ってことばかり考えています。そうじゃないと楽しめませんし、誰かがやってることをなぞってもつまらない。インディーゲームですごく斬新なゲームや、変なゲームを作ってる若い人達がたくさんいて、今からそこに自分が同じことをしに行っても仕方がない。じゃあ、自分が今いる、どちらかというと不自由なコンシューマーゲームのフィールドで変なことができないか……そんなことを考えています。そのほうが楽しいので。

──ひとつの場があれば、その場を否定したりせずに、まずそこでできることを探すスタイルなんですね。

ヨコオ:ビジネスですから。

──(笑)。今後もそのビジネスなスタイルで、アレの続編とかコレの続編とか、なにより新しいもの、いろいろいろいろ期待しております。本日はありがとうございました!
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そんなわけで、ヨコオさんの書き下ろし脚本で展開する新たな「ヨルハ」の物語。『ニーア』を知ってる人も知らない人も、この「少年ヨルハ」、ぜひ触れてみてはいかがでしょうか。


テキスト:サガコ(Sagako) フリーライターときどき小説家。ゲームやアニメ、テレビが好きだけど腐女子にもなりきれず夢女子にもなれず、すべてにおいてハンパな人生を謳歌中。「少年ヨルハ」ではパンフレットのテキストを担当。不思議なご縁で「水曜どうでしょう」関連の書籍も手がけています。
ツイッターアカウント→サガコ@sagakobuta

電撃文庫「リペットと僕」

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