都会の喧騒から少し離れたところにひっそりと佇む"ギャルゲーBAR☆カワチ"。ここは、日々繰り広げられるコンクリートジャングルでの生存戦争に負けそうになっているメンズたちのピュアハートを、ゲーム好きのマスターが「ギャルゲートーク」で癒してくれるという、シシララTVオススメのゲームBARなのだ……。
そんな体裁でお送りするギャルゲーコラム。気になる第20回目のお客様の悩みと、その痛みを癒してくれるゲームとは?
第17回目のコラムはコチラ→『ねこぱら』
第18回目のコラムはコチラ→『探偵オペラ ミルキィホームズ』
第19回目のコラムはコチラ→『シスタープリンセス』
■『やるドラ』シリーズでもっとも陰鬱な作品、その魅力とは!?
(カランカラン!)
カワチ:いらっしゃい。
──マスター、なにか美味しい食べ物をくれ!
カワチ:なんだなんだ、いきなり……。それにしても、この店は酒よりも食べ物を頼む客が多いなぁ。別にいいけどさ(苦笑)。
──いやー、最近、彼女と同棲をはじめたんだけど、あまり料理が得意じゃなくて……。
カワチ:あらら。
──だから今日も会社の飲み会ってウソついて、ここにメシを食べに来たんだ。へへ……。
カワチ:おいおい。バレてもしらないぞ。
──そうはいっても、外食のほうが美味しいからなぁ。もちろん彼女には悪いとは思っているけどね。
カワチ:本当か? やれやれ仕方ない。キミには手遅れになる前にこちらをプレイしてもらおう。
──ゲーム? 『雪割りの花』って、なんだこれ?
カワチ:かつてこのギャルゲー★BARでも紹介したことがある『やるドラ』シリーズのひとつさ。どれ、まずは『やるドラ』シリーズについておさらいしよう。
──頼むよ。俺は『やるドラ』って言われてもピンとこないし。
カワチ:『やるドラ』……。それは「みるドラマから、やるドラマへ。」というキャッチコピーで発売されたアドベンチャーゲームのシリーズなんだ。当時としては珍しいフルボイス・フルアニメーションで展開するアドベンチャーゲームさ。随所に登場する選択肢を選ぶだけでいいので、キミのように普段コントローラを握らないって人にもオススメの作品だよ。
──ふ~ん。シリーズってことは、順番にプレイしたほうがいいのかな?
カワチ:いや、それぞれ独立したストーリーだから『雪割りの花』からプレイしても大丈夫だよ。ちなみにプレイステーションでは春夏秋冬の季節を題材にした4作が発売されていて、冬を題材にしたこの『雪割りの花』が、発売日的にはラストを飾った。まぁ、その後もプレイステーション2で『やるドラ』シリーズ自体は続いていくんだけどね。
──へぇ~。人気のシリーズなんだね。
カワチ:ああ、ただ、この『雪割りの花』は、あまり売り上げが振るわなかったんだよな。
──え? 人気がなかったってこと!? どうせならもっと面白いヤツを紹介してよ。
カワチ:まぁまぁ、落ち着け。『雪割りの花』が売れなかったのにはちょっと理由があるんだ。このグラフィックを見てくれ。
──んー? アニメ―ションのゲームって聞いたからもっとテレビアニメっぽい絵柄を想像していたけど。なんだろう、かなり落ち着いているんだね。どことなくジブリっぽい。
カワチ:そうなんだよ。ほかの『やるドラ』はもっと萌えアニメっぽいグラフィックなんだけど、この『雪割りの花』はグラフィックが独特でね。この雰囲気が合わないって敬遠しちゃった人が多かったんだと思うんだ。つまり、物語としての魅力はほかの『やるドラ』になんら劣るところはないから安心してくれ。
──ほう。まぁ、俺はこの落ち着いた雰囲気は嫌いじゃないけどね。
カワチ:おっ、わかってくれるか? 『ダブルキャスト』や『季節を抱きしめて』のキャラクターデザインはとても素敵だけど、『雪割りの花』のデザインもこれはこれですごく素敵なんだよ!!
──うわあ、いきなりテンション上がったな! わかったからちょっと離れてくれ、マスター!!
カワチ:すまん、ついな(苦笑)。ただ、もしも当時この絵柄のせいで本作を敬遠していた人がいたら、今こそプレイしてもらいたい。ストーリーもすごくアダルトで大人向けだし、今だからこそ楽しめる部分も多いと思うんだ。
──ア、ア、アダルト!?
カワチ:いや、変な意味でじゃないよ!? まぁ、主人公とヒロインが物語の途中でエッチしちゃうという意味では、本当にアダルトなんだけど……。ちなみに一線を越えてしまうときの選択肢「もう止まらないんだ…」は、ゲーム史に残る名言だと思っている(笑)。
──そ、そこのところ詳しく!
カワチ:鼻息荒いなぁ、まぁ落ち着けって。この作品のシナリオはアダルトであると同時に、シリアスで沈鬱な雰囲気なのが特徴でな。ほかの『やるドラ』作品だとグッド、ノーマル、バッドの3種類に分かれているんだけど、本作にはグッドとバッドしかなくて、不幸な結末が圧倒的に多いんだよ。
──そうなんだ……。ある意味冬っぽいと言えるのかもしれないけど、鬱々としているのは嫌だなぁ。
カワチ:『やるドラ』シリーズはサスペンス作品の『ダブルキャスト』がトラウマ作品としてあげられることが多いけど、この『雪割りの花』もかなり心をえぐってくる。でもな、そんな重い作品だからこそ、ハッピーエンドを迎えたときに唯一無二の感動があるんじゃないか?
──うーん、そうかもなぁ。って、うまく誤魔化されているような気もするけど。
カワチ:そんなことないって! じゃあ具体的な内容を説明するから、それで判断してみてほしい。
──そうだね。それじゃあお願いしようかな。
■主人公に感情移入することで最高にドキドキできるゲーム性
カワチ:本作の舞台は北海道の地方都市。それまでの『やるドラ』はハッキリとしたモデル都市は明言されていなかったんだけど、本作ではきちんと設定されている。
──そうなんだ。リアル志向なんだね。
カワチ:ああ。設定がリアルになったぶん、感情移入もしやすくなっているよ。で、話を戻すが、北海道の安アパートに住む主人公は、密かに想いを寄せていた隣の部屋に住む女性、桜木花織(さくらぎかおり)が、ある日恋人と抱き合っている姿を偶然にも目撃してしまうんだ。この始まり方からして、ちょっとドキドキするだろ?
──た、確かに! 安アパートっていうことは、エッチな声も隣から聞こえてきちゃうってことだもんな。
カワチ:どんな妄想力だよ!! でも、そういうことを考えると余計にドキドキするよな……。ギャルゲーってヒロインが清純であることが基本だけど、花織さんはすでに恋人がいるから、そういうところも大人のストーリーだね。
──自分はゲームをあまりプレイしないけど、確かに大人向けって感じだね。それでどうなるんだ?
カワチ:花織が恋人とキスする姿を見て失意に暮れる主人公のもとに、警官が訪れるんだ。そして彼らから花織が病院に運ばれたと告げられる。
──マジ? てか、警察もなんでまた隣に住んでいる男にそんなこと報告するんだ?
カワチ:まぁ、そこはフィクションのドラマだから。あえていうなら花織は家族を事故で亡くしてしまって身寄りがないから、ほかの連絡先がわからなかったとかね?
──そうなのか……。あれ? 恋人は?
カワチ:……実はな。その恋人が海外出張中に事故で亡くなってしまったんだよ。
──なんだって!?
カワチ:その事実を聞いた花織はショックで倒れてしまったというわけだ。そして病院にいった主人公は、医者に衝撃の事実を聞かされる。彼女は心因性記憶喪失になり、恋人が死んだという事実だけを忘れてしまっていたんだ。
──えぇ? そんなことありえるのか!?
カワチ:ああ。そういえば説明していなかったな。『やるドラ』の共通したテーマに“ヒロインが記憶喪失”というものがあるんだ。俺は4作目だったから驚かなかったけど、最初にプレイするのがこのゲームだと驚くかもな。
──あ、あぁ。確かに驚いたけど、ヒロインが記憶喪失っていう題材自体は、物語的にはポピュラーかもしれないね。
カワチ:うむ。だが、ここからさらに驚くぞ。恋人の昂が死んだという記憶を封印してしまった彼女のために、主人公は昂の代わりになろうと決意するんだ。
──いやいや(苦笑)。なんとなくそんな感じになるのかなって思ったけどさ、普通に考えると絶対にバレるでしょ!
カワチ:ああ。実際ちょっと選択肢を間違えるだけで、花織が記憶を取り戻してバッドエンドになってしまう。彼女が後追い自殺してしまう結末も多いから、これまた憂鬱な気分になれるんだよ。
──それは重たい……。バレないようにうまく行動しないといけないわけか。
カワチ:うむ。『雪割りの花』は主人公の行動がバッシングされることが多いんだけど、彼女はそうやって騙し続けていかないと、自分で命を絶ってしまうわけだからさ。結果的に主人公は正しい行動をしていたと考えることもできるだろう。まぁそれでも許せないっていう人のほうが多いだろうけど(苦笑)。
──そりゃそうだろうねぇ。恋人に成り済ますなんてありえないもん。
カワチ:まぁ、そこはゲームだと割り切って楽しむのが正解だと思う。いけないことだと思いつつ、恋人のフリをして花織さんとキスしたりエッチしたりするのは、ぶっちゃけものすごく興奮するぞ。
──なんかこう……最低だな!
カワチ:ああ、最低だよ! でもな、このゲームはキスしたりエッチしたりするルートじゃないとハッピーエンドが見えないんだ。だからお前も必然的にこっちを選ぶしかないわけだ。
──ま、まぁ、そう言われたら花織さんを抱くしかないか……。
カワチ:あんたも好きねぇ!
──いや、そっちがやれって言ったんだろ!
カワチ:ハッハッハ。
──なんなんだよ(苦笑)。ただ、現実でそんなことしたらヤバいから、ゲームでシチュエーションを味わうというのはアリかもな。そんなシチュエーションに現実で立ち会うこと自体がまずないと思うけど。
カワチ:それもそうだな。
──でもさ、ゲームの内容を聞いていると、やっぱりウソをついたほうがいいんじゃないかっていう気もしてきたよ。人生、素直なだけじゃやっていけないってことだな。
カワチ:いや、違う。『雪割りの花』の主人公は不器用だけど、あくまで相手のためにウソを付いているんだよ。花織さんに傷ついてほしくないんだ。もちろん若い男女だから、過ちが起きてしまうこともあるけど……少なくともキミのように自分勝手なだけの理由じゃない。
──ウッ。
カワチ:そこをはき違えちゃだめだよ。同じウソでも、キミのウソは相手を不幸にするだけのもの。それに主人公は、きちんと最後に花織さんにウソをついていたことを謝罪するしな。
──それで……主人公は許してもらえるのか?
カワチ:ああ。最後はハッピーエンドだよ。
──なるほどな。でも俺、まだ間に合うんだろうか。
カワチ:そんなことまで俺は知らないよ。ただ行動しなければ何も始まらないのも確かだろ。
──俺、今までひどいことをしていたよな。彼女に謝ってみる。そのうえで、一緒に料理の勉強でもしてみようかな。マスター、本当にありがとう!
カワチ:ああ、彼女と仲良くな。